つぐもりを作ろうとした経緯とその先のイメージ

つぐもりを作ろうとした経緯とその先のイメージ

浅間山麓から佐久平、その先の八ヶ岳連峰を見渡せる景色を初めて目にしたのは約30年前。浅間サンラインが開通した時のこと。

その時から「いつかこの景色を見ながら暮らしたい。そしてゆっくりした時間を楽しんでもらえる場所を作り、多くの人にこの場所からのエネルギーを受け取ってほしい」と秘かに思い続けてきました。

2018年、自宅を建てた時に250坪の山林の樹木を全て伐採伐根した経緯が、心苦しい思い出として今もあります。

住宅メーカーの営業マンに樹木があるといかに建築とその後の管理が大変かということを一般的な価値観で言われ、それに対し疑問を持っていても一部の樹木を残すことをはっきり言えなかったからです。樹齢50年以上のカラマツや桜などの木々を切ってしまいました。

2019年秋、隣の林に分譲住宅の話が持ち上がっていることを知りました。林の木々を切ったことの後悔がその場所の木を切りたくない思いに繋がりました。

「自分は木を伐り家を建て、隣の林への住宅建設には反対する」

自分勝手と言えばそうなのです。ですが、その林はJR佐久平駅や中部横断道の佐久北インターに直結するグリーンロードに面していてアクセスが良く、手前の信号で停車すると真正面に見える林です。

私はその林を残さなければいけないと強く思いました。ここが後ろに木々を背負い美しい公園のようになったら、訪れる人はもちろん道を通る人にも癒しを感じてもらえるのではないかと昔からの夢と重なったのです。

この地に住んで5年になりますが、周辺は太陽光発電用地として樹木が伐採されている場所が増えています。山林のままでは荒れていくし、手を入れたところで一円にもならない。地主としては、買い手が現れたら売却のチャンス。次々と山林が減っていくと感じています。太陽光はクリーンエネルギーだけど山林の樹木を伐採してよいのだろうか?そんな思いが私にはあります。

そして世界は地球温暖化の真っただ中。全ての人が憂慮しているにもかかわらず年々気温は上昇しています。真剣に次のクリーンエネルギー開発をしている企業はほんのひとにぎりで、大企業はいまだ資本主義の中で他社との競争を繰り広げていて、見せかけのSDGsを標榜しているグリーンウォッシングばかりとのことです。

しかし、それに対して何をすればよいのか、個人ではなかなか見つけにくいこともあります。日々の暮らしの中でできることは、買い物袋の削減をしたり、暖房温度は下げ冷房温度は上げるくらいしかない気がします。

2021年、隣の山林を購入して一年ちょっと過ぎた頃です。放置しておくと山林は荒れ、雪や風雨で倒木が道に倒れたり電線にかかったりするようになりました。八ヶ岳と佐久平を見渡せる景色はそこにありながらも、足も踏み込めない状態でした。

このまま荒らしておいて良いのか?ここがきれいに整っていたらどうしたいのだろうか?私は昔の夢を思い出しました。ガーデンがあり、カフェやお店があり、人々が集まって景色を眺め、木陰で風を感じ癒される場所を作りたい。実は30年前からの夢だったのです。

カフェや宿泊で利用してくれる人には癒しを提供する。その収入が環境整備や運営資金になり、働く人の雇用資金になる。そして次のステップとしての周辺環境の整備費に充てる。周りにはまだまだ荒れた山林や耕作放棄地があるのです。そこも綺麗にしていきたい。

「あぁ、こうなって美しい場所が作られていくんだね」誰もが分かるように循環させて地球を守ること。それをやってみたいと思っていたのです。その当時はあまりに果てしなく、現実味がない「夢」でした。その夢にお金をかける心の余裕もまた現実的に資金もありませんでした。

その時、古くからの友人が「とりあえず、荒れ地の整備をしてみたら?きれいになるとその先が見えてくるかもしれないから」と資金提供を申し出てくれたのです。

この林を整備し、守ること。それが私が地球に対してできることかもしれない。

そう思った私はすごく嬉しく、ガーデナーさんに事情を話しました。先の見えない仕事ですがガーデナーさんも賛同してくれ、早速人を集めて整備作業が始まりました。

資金を大切に使うことが前提なので、大掛かりな重機は使わず、まずは人力で作業を始めました。私も入れる時間は加わり、まかない弁当を作って少しでも無駄なお金を使わないようにしました。こうしてやっと動き始めたのです。

すると段々協力してくれる人が増えてきました。学生時代の友人や千葉の友人、そして地元藤塚区の方々。ボランティアベースで作業をしてくれる人が集まり、どんどんきれいになっていきました。翌年春には芝生を植えられるくらいの美しさになりました。私一人だったら絶対出来なかったことが、多くの人の力で林に心地よい風が流れるまでになったのです。

2022年春、そこにまた新しい希望が見えました。娘と経営する会社の新規事業としてこの林にカフェと宿泊施設を作ることが決まったのです。

私は古い友人の言葉を思い出しました。きれいにしたら、その先が見え始めたのです。やっと昔からの夢が現実の光を放ってきました。

そこからは整備にもさらに力が入り、敷地の設計、コンセプト作りなども始まりました。私が大切にしたいのは「ここに自然と協和した循環型の継続性のあるコミュニティを作りたい」ということです。訪れる人も、働く人も、他の形で関わりたい人も対等であること。

ここに来ること、関わることで私たちが自然の一部だと気づき、自発的な行動のきっかけになれたら嬉しい。

大自然のど真ん中でなく、周りには家もあり人の気配も感じますが、この場所は私たちに自然との精神的な結びつきを気付かせてくれるのです。

実際に何をこの場でするのか?カフェや宿泊、ガーデン等の施設も訪れるきっかけにはなりますが、それ以外にもガーデン整備の共同作業や地元野菜の料理教室、各種作家さんの発表の場など敷地内設備の広がりに応じて、できることを広げていきたいと思っています。

カフェで飲食をすることが自分の癒しにもなり、この杜の整備や自然にも貢献できる。客と店という立場でなく、共に創る者として対等にある場所。

それを目指していきたい。それが私の夢の場所、つぐもりです。

オーナー  土屋順子